料理は対話から生まれて育つ~その1 食べる宿泊施設「オーベルジュ」を神戸で~

神戸の山手、異人館街近くに建つ「神戸北野ホテル」は、女性客を中心に人気を集める神戸の代表的なホテルの一つです。 総支配人で総料理長の山口浩さんに、開業から今日にいたるまでのお話しをお伺いいたしました。

神戸北野ホテル

神戸北野ホテル


オーベルジュ(宿泊施設付レストラン)として2000年に開業。フランス料理界の重鎮ベルナール・ロワゾー氏直伝の「世界一の朝食」で知られる。
客室数30室。フレンチレストラン、ダイニングのほか、2014年新たにバーを開設。

震災がきっかけとなったオーベルジュ

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「21世紀のフランス料理の扉を開けた料理人」と称されたベルナール・ロワゾー氏の元で修業を積んでいた山口さんが、ロワゾー氏のレストラン「ラ・コートドール」の海外初ブランチ(支店)として、神戸で料理長を任されたのは1992年のことでした。

ロワゾー氏はフランス料理から生クリームとバターを排除し、フランス料理界に革命を起こした人として知られていましたが、まだ日本では従来のフレンチが王道で、「帰国当時は周りからそんなのはダメだ、現実的ではないと言われていましたね」と山口さんは振り返ります。

「でも、ロワゾー氏が提唱した水のフレンチは、和食に近い素材を大切にする考え方の料理なので、必ず日本で受け入れられ、根付くと考えました。私はアンバサダー(大使)として日本に広めたいと思ったのです」
当時、日本の「ラ・コートドール」は関西で客単価の一番高いお店でしたが、山口さんは3年間、ロワゾー氏のフレンチを忠実に表現して徐々に顧客をつかんでいきます。そして、これからは自分なりの日本の文化を加えたメニューを…と考えていた1995年1月、阪神淡路大震災が起こりました。

再建のメドがたたず、「ラ・コートドール」は日本からの撤退が決まりました。震災も撤退も突然のできごとだったので、なかなか現実として受け入れられなかったという山口さんでしたが、料理人としての腕を見込まれ、震災により5年間の閉館が決まっていたホテル再建の話しが持ちかけられます。

「フランスではオーベルジュでも働いていたのですが、ここと同じように30室の宿泊施設を持っているレストランだったのです」
通常のレストランなら、滞在は長くても3~4時間ですが、「食を楽しむこと」に重きが置かれたオーベルジュなら、チェックインから翌日のチェックアウトまで、夕食、朝食、ティータイム、時にはお酒と、おいしさをトータルに提供できます。それがフランスでは当たり前で、理想的だという思いは帰国当時からあったといいます。

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「いろいろなことを積み上げてきたのに全て失ってしまったという虚脱感にとらわれていましたが、ここを見た時に、フランスで体感した『オーベルジュ』を『神戸』という街で、私自身がもう1度やり直したいという思いが沸いてきたのですね」
もともと、イギリス貴族が住む荘園の邸宅をイメージした建物だったので、外観の瀟洒な佇まいを生かしながら、2000年、オーベルジュ「神戸北野ホテル」が誕生しました。

神戸という街で営む意義

開業時、「フランスのオーベルジュスタイルを、神戸で受け入れてもらえるだろうか」と山口さんはやはり考えました。しかし、神戸は異人館街もあるほど外国人が暮らした歴史、昔から西洋文化が市民レベルで育まれてきた街です。「日本のジャズ、映画の発祥の地でもあり、外国のいろいろなものを見て来たから、神戸に住んでいる人はとても目が肥えています。本物とそうでないものが識別できる、だから本物は認めていただけるだろうとは思っていました」

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結果的にオープン時の来客は半分以上が兵庫県、地元の方たちでした。そして、バブル経済破壊以降、旅行の1つのスタイルとして浸透した「安・近・短」が追い風となります。
「遠くに旅行するより近場の魅力的な観光地で宿泊し、交通費を節約した分はおいしい食事に回す、神戸でオーベルジュを利用することがお客様にとって理想的だったんですね」

山口さんは神戸について「魅力的かつ、ちょっと変わった街(笑)」と評します。「南北3キロ、東西10キロのエリアにミナトがあって、洗練された街並みがあって歴史がある。海岸近くで食事をし、映画を見て、そこから20〜25分歩くと、もう山の空気を感じるというふうに、すべてが凝縮した場所って日本全国でもそんなにないと思うのですね」

自己否定から進んでいく

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2011年、神戸北野ホテルは、フランスの「ルレ・エ・シャトー」の会員に選ばれました。フランスでは80%の人が、ブランドとして認識している「ルレ・エ・シャトー」とは、厳しい審査に通ったレストランとホテルの非営利会員組織で、日本での加盟はまだ20軒ほどです。「質の高い料理」など5分野で150〜200近い項目があり、インスペクター(チェックする人)が全てのことを認めて加入が許されます。「私がフランスで修業している時は、いいレストラン、いいお宿だなと思ったら必ず、ルレ・エ・シャトーのマークがあったので、それは1つの目標でした」

「ルレ・エ・シャトー」は、「世界のどこにでも、世界のここにしか」
つまり、世界中のどこにあっても満足できる厳格な基準をクリアしながら、ここにしかない独特のキャラクターを持ち続けているレストラン・ホテルであることを求められます。

昨年11月には客室を改装、白・緑・ピンクの基調色をやわらかい色合いに変え、新しくバーを設置しました。「私自身、大事なのは『自己否定』だと思っています。出来上がったものがずっといいと思っていては進歩がありません。たとえば、お客様からおいしかったと言われても、ほんとだったのだろうか、ほんとにこれでいいか?という気持ちを持ち続け、常にもっと前へと考えています」

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